2015年8月12日水曜日


閑話休題 【本日の一冊】

最近、「仕事抜きで読んだもの」のうち特に印象に残った一冊。

帯の文言には「異色SF」とあるが、本作を「大自然の逆襲もの」とみると、非常にオーソドックスで共感を得やすいものに仕上がっていると思う。

自然の力の逆襲に直面する人類というテーマは、パニックものであれ、パンデミックものであれ、「社会の危機に個人がどう立ち向かうか」を描くことになる。
本作では、どのエピソードもしっかりとした社会や家族の描写があり、それらが登場人物の存在感となって、落ち着いた作品づくりを支えている。

四つの物語で描かれたモチーフも、それぞれ入念に選別されていて感心させられる。「喜(好奇心)」、「怒(復讐)」、「愛(哀)」「楽(平和)」と、刺激すべき感情を綺麗に網羅しており、それぞれの二転三転する葛藤と希望、そして結末を、余韻たっぷりにみせてくれる。

作者が「千手観音症候群」と名付けた自らの特異なテーマに忠実に従いつつも、身近な感情を描くことをモチーフとして選んだのは、優れたバランス力だ。

デビュー時の冲方は、その点でものすごく苦戦した。テーマもモチーフも特異なものにしてしまい、「カルピスの原液みたいなものをひたすら飲まされるのは苦痛だ、もっと薄めろ」とよく言われたのを覚えている。今でも言われることがある。

ゆいいつの不満は、タイトルとカバーの大人しさである。作品を読めばカバーの意味がわかってじんとくるし、よく言えば落ち着きがあるが、悪く言えば印象に残らない。
もっと率先してニーズを選び、強いインパクトで攻める方が、長くこの作家を応援し、成長を楽しみにしてくれるコア読者を獲得できるのではないか。
より一般層へニーズを広げるのはそれからでも遅くないし、いずれはそうすることができるに違いない描き手だと思う。

(創元SF文庫「さよならの儀式 年刊日本SF傑作選」2013年版に、本作の一編が収録されていることに、むやみとほっとさせられる。この手の作風が大好きな方々にずいぶん届いたことだろう。)

個人的には、カバー・帯の裏の方が、手に取る基準になって好みだ。