2012年2月10日金曜日

☆本日のオマージュ☆

カフカの『家のあるじとして気になること』風 わが家の近況

第一の説。アンペアという言葉は電流と磁界の関係を説明したアンペールの法則のアンドレ=マリ・アンペールに因んでいるという。
第二の説。アンペールは純真無垢で優しい人だったという。いずれにせよ、どちらも知ったことではない。とりあえずもっともらしく考えるとすれば、どちらも無関係で、そもそもそんなことをしても、アンペアの意味がわかるわけではない、となる。
むろん、そんなことを調べまくったところでなんになるのか、という話だが、実際、アンペアブレーカーという名で、やつが存在しているのだからしかたがない。やつは見た目は済ましたレゴの感じ、きっちり組み立てられた7200円のファニーハウス・ブロックみたいだ。しかも本当にレゴみたいに取り外せそうに見える。ただ、そのブロックはつるつるで、組み合わさっているというより頑固に一体化していて、なおかつブロックはそれぞれ違う理由でできあがっているようなんである。それでもって、やつはただのブロックにあらず、背後からはぐちゃぐちゃともつれ合った電線が延びていて、さらにその電線をどうにかするためのスイッチが突き出ている。平面に対して、上下に動かすスイッチのとんがり、それが全体に沢山ならんでいて、まるで済ましたツンデレ女の鼻みたいにどれも上げておくことができる。
そうなれば、このオブジェがかつてはもっともらしい理屈でオンになっていて、今はオフになってしまっただけなのだ、そんなふうに考えたくなるのも人情というものだ。だが、どうやらそうでもなさそうなのである。少なくとも、それらしいところはひとつもない。そうではないかと思わせるだけの手がかりもなければ、オフにした形跡もない。どこからどう見ても意味不明のがらくたなのだが、それでいてひとつのものとして出来上がっている。もうちょっと言わせてもらうと、アンペアブレーカーはめちゃくちゃすばしっこいやつなので、どうにもポータブルにはなれなくて、だからそういうことをどうとも言えないのである。
やつはかわるがわる、エアコンに、給湯器に、ヒーターに、温水器に、便座に、電気を流してはじっとしている。たまに何ヶ月も姿を消すことがある。おそらく別の家にうつっているのだ。だがそのあと、かならず私たちの家に出戻ってくる。たまにひとがうちへ帰ってみると、やつが階段の手すりの下で、給湯器が凍結して水漏れしていることもある。そんなとき、ひとは声をかけてみようかなと思う。むろん、ややこしいことを問いかけたりはせずに、(まあ、ちっぽけなことしかしないやつだからそれ相応に)幼児あつかいしてやるのだ。「あのさ、ぼく、なんて名前?」とか尋ねてみる。すると「配電盤」とか、やつはいう。「じゃあ、どこに住んでるの?」すると「わが宿は はしらもたてず ふきもせず 雨にもぬれず 風にもあたらず」といって、やつは笑う。だが笑うも何も、ピカピカパチパチ爆ぜてるだけの電気野郎なのに人の声に聞こえてならない。落ち葉がかさかさいう音のように耳障りだ。きまってそういう笑いで、会話が終わる。そもそも、うちの水道管が凍結破損して二日間ほど水がだだ漏れになっていたってことも、よくある話だ。ダイキンのように忠実。TOTOのように硬質。レゴのように無口。たしかにやつはレゴっぽいんであるが。
どうでもいいことだが、わたしはこう考えてみる。
これから先、だだ漏れになったまま止まらないシャワーはどうなるんだろう。
気づけば失効していた車両保険の加入し直しと、運転免許の更新の連絡が、同時に来るなんてあり得るのだろうか。
〆切に間に合わなくなることがあるのだろうか?
ギックリ腰はみな、あらかじめ何らかの目標を持ち、何らかのやることをかかえた者に訪れる。
そして、そのためにあくせくする。
だがアンペアブレーカーの場合、こういったことが当てはまらない。もしかすると、やつはこれから先もずっと、わたしの子や孫やひ孫の頭上で、鼻をとがらせながら、ピカピカ落ちたりするのだろうか。
さっさと直らないと〆切がやばいなんてことは、わかっている。
などと思うと、わたしはどうも悩ましくてしかたがない。